キューバ人はサルサを聴かない?(後編)

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キューバ音楽、ロス・ヴァン・ヴァン

 

「キューバ人はサルサを聴かない?」の後編。

本場のサルサで踊りたい。そんな思いもあって初めてキューバの土を踏んだ1999年。「現地の人が行くサルサクラブを教えて」と、キューバ人に聞いて出かけた首都ハバナ、ミラマール地区にある「カサ・デ・ラ・ムジカ」(音楽の家)はがらんどうでした。ダンスフロアに、迷子のように不安そうな数人の観光客。突如として幕が開き、きらびやかな衣装とともに現れたサルサバンドの演奏はグルーブ感にあふれ、迫力抜群で腰を抜かしそうになりました。

 

数少ないエンタメ施設は当時、外国人のためのもの。カサ・デ・ラ・ムジカ入場料は5CUC(約500円)でしたが、キューバ人の平均月収(約2000円)からすると高額で、地元の人はほとんどいなかった。そのあと偶然、「カサ・デ・クルトウーラ」(文化の家)という公民館の庭で開かれていたパーティにしのびこむことができ、現地の人とおしくらまんじゅうになりながら、大音量のサルサに体を揺らしたのが得難い体験でした。

 

08年になると、ライブハウスやダンスクラブが新市街(ベダード)にいくつもできていて、現地の人も集まっていました。ところが、すっかり懐かしのメロディと化したサルサはどこへやら。ライブハウスは粋なジャズやアコースティックがあふれ、ダンスクラブはレゲトンやラインダンスで盛り上がっていました。街並みは昔のままなのに、「古いものにしがみつかない」キューバ音楽。サルサ好きとしては、散歩しながらときどき、民家やバスやタクシーからもれ聞こえてくる「懐メロ」を耳にして、にやにやするぐらいしかありません。

 

さて月日はめぐり、15年。サルサがすっかり息を吹き返していました。観光客が増えたからでしょうか、ロス・ヴァン・ヴァンやエネヘ・ラ・バンダといった老舗の著名サルサバンドがあちこちでコンサートを開き、現地の人も観光客も一緒に盛り上がっています。観光客を「接待」しようとキューバ人のボディコン女性たちも仰山ライブハウスに押しかけ、異様な光景、いや、こみ具合でした。

 

そんななかでも、サルサのステップを心得ているのはやはり、キューバでは年配層に限ります。若いキューバ人たちからは「日本人の女性がクラブでびっくりするほど上手に踊っていたのを見たよ」と感激まじりの報告を受けました。いまや幸か、不幸か、日本は世界一サルサがいっぱい聴けて、サルサがたくさん踊れて、愛好家の技がハイレベルな国だというのは間違いありません。

 

これからどうなるキューバのサルサ事情ですが、ハバナ新市街の住宅街を歩いていたときに、何ともロマンチックな調べが耳にとびこんできました。音源は、電池やら電気コードやらを手売りしている、片目が開かないおじいさんの横に置かれたCDラジカセ。つい立ち止まってしまうすてきな選曲。商売道具か、趣味なのか。「キューバの音楽好きの層は厚いぞ」と感じ入ったひとときでした。

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斉藤 真紀子
斉藤 真紀子
日本経済新聞米州総局(ニューヨーク)金融記者、朝日新聞出版「AERA English」編集、週刊誌「AERA」専属記者を経てフリー。共著に「お客様はぬいぐるみ」(飛鳥新社)。趣味はラテン音楽&ダンス、カポエイラ(格闘技)
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