【インタビュー】 キューバの素顔を映し出す「Tres Razones~3つの理由」

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昔から知っている相手のように、人懐っこい笑顔を向ける人びと。日常の光景のなかに垣間見る、人びとのプライドや誇り。写真家、矢島徹至さんの写真展、「Tres Razones~3つの理由」はふとした交流や街角のなかでとらえた、生き生きとした表情を映し出した作品が印象的です。
ほんとうのキューバの姿を伝えたい。会社員を続けながら、写真家として活動する、矢島さんの想いを伺いました。
矢島徹至さん。「会場にいらしたみなさんとキューバあるある話をするのも楽しいです」

矢島徹至さん。「会場にいらしたみなさんと、キューバあるある話で盛り上がることもあります」

 

Q: キューバで、どのようなテーマで撮影したいと考えていましたか?

キューバは昔のままの風景が残っています。変化する前に、今に至るまでの「過去」を撮りたいと思っていたのですが、実際にカメラが映し出したのはこの国の「未来」。写真には人びとの自信や誇りが前面に出ています。こうしたキューバのこれからを支えていくのが、プライドだと思います。

Q: テーマに掲げた、「Tres Rasones~3つの理由」とは?

たまたまかわいい猫と街角の写真を撮っていたら、映り込んだ壁にこんな言葉が書いてありました。”Todos los hechos tienen 3 rasones. La mia, la Tuya y la verdadera.” (ものごとには3つの理由がある。わたしの理由とあなたの理由。そしてほんとうの理由)

ここのところ、自分の立場からしかものごとを見ようとせず、自らの価値観を押しつける風潮が広がっていると、閉塞感を抱いていたのですが、キューバの人たちは自由で開放的でした。貧しくても、人びとは屈託のない笑顔で話しかけてきます。そのことが強く印象に残っています。

壁の落書きにあった「3つの理由」という言葉は、自分と相手の見方、その違いの間にある真実は何か。それを考えることの大切さを教えてくれます。ここに掲げた写真展は私が見たキューバの風景ですが、あなたの目にはどのように映るのか。あなたなら、作品にどのようなタイトルをつけるのでしょうか。それぞれの瞬間にふさわしい表題をともに探っていただけたらと思います。

妻のともみさんと2017年4~5月に滞在。「キューバではどの仕事をしている人も互いに対等な関係であるのが印象に残りました」(ともみさん)

2017年4~5月に滞在。ボリビアに滞在したことがある妻のともみさんが、現地の人たちとの楽しいやり取りをスペイン語でつないでくれた

 

Q:3枚ずつ「組写真」になっているのは、「3つの理由」というテーマと関連しているのでしょうか。

3つのシーンを組み合わせることで、写真1枚の訴求力を超えた力が生まれると思いました。ファインダーの向こうに実際にあった風景やモチーフが持つ、存在価値、そして存在する理由を引き出せるのではないかと思ったのです。中にはあえて「なぜこのタイトル?」と疑問を持ってもらえるようにしたものもあります。

Q:とくに印象に残った風景は?

「PRIDE」というタイトルをつけた3枚の写真がありますが、カメラを持っていると、「写真を撮って」と声をかけてくる人たちが大勢いました。妻とふたりで旅行をしていましたが、「私たちふたりの写真を撮ってください」とキューバの人に頼むと、「いいよ」と言いながら、自分も一緒に収まっていることが多い(笑い)。その辺にたくさんいる、上半身裸の中年男性たちの、どこからくるのか自信ありげな表情が面白かった。

驚くような出来事もありました。到着してまもなく、メーデーの行進を撮影しに行く途中、タクシーでコンパクトデジタルカメラを車内に忘れてきてしまったのです。メーデーの後、中心街に戻って、一応タクシーを手配してくれた係の男性に聞いてみたら、「運転手はオレの甥だから」とすぐに連絡を取ってくれ、なんとカメラが戻ってきました。そのカメラには、運転手さんが何枚か、試し撮りをした形跡があったので、「忘れ物」の存在には気づいていたはず。それでいて、自分のものにはせず、持ち主が現れたときに知らないふりもせずに返してくれた。そういう「人のよさ」がにじんだ表情が印象に残っています。

それから、自分は走るのが好きなので、ハバナでも、コンパクトデジカメを持って朝30分ぐらいランニングをしていました。海沿いのマレコン通りを走り抜け、街中を撮っては走り、という感じで。その1枚がソニーのコンテストで賞をいただいたクラシックカーの写真です。

ハバナ市内で。車内に忘れたコンパクトデジタルカメラを届けてくれた運転手さん(中央)と

ハバナ市内で。車内に忘れたコンパクトデジタルカメラを届けてくれた運転手さん(中央)と

Q:レセプションでのキューバの伝統音楽「ソン」などを演奏する3人のミュージシャンとのコラボレーションはどのように実現したのでしょうか?

キューバの三弦ギター、トレスを担当するウエキ弦太さんは15年来の知り合いでした。もともと、自分はプログレッシブバンド「ゴダイゴ」のファンだったのですが、メンバーのミッキー吉野さんと一緒にギターを演奏していた弦太さんともずっとつながりがあり、最近になって、彼がキューバ音楽を奏でていることを知ったのです。

もともと、写真と音楽のコラボ企画をこれまでも手がけてきて、音とビジュアルを融合させて、表現する方法を模索してきました。今回は弦太さんにご紹介いただき、バンド「Septeto ¡ORIENTE!」(セプテート・オリエンテ)のメンバーのボーカル、SHIBUさんと、ギター、ヨシロウさんがご参加くださいました。

28日のレセプションで演奏するトリオ。右からSHIBUさん、ウエキ弦太さん、ヨシロウさん。伝統音楽ソンを奏でる

28日のレセプションで演奏するトリオ。右からSHIBUさん、ウエキ弦太さん、ヨシロウさん。伝統音楽ソンを奏でる

Q:商社にご勤務されながら、写真を撮られるようになった動機は?

私は仕事で長くロシアに携わってきましたが、旧西側諸国の人たちに正しく理解されておらず、忸怩たる思いを常々抱いていました。ですから、ロシアの本当の姿を伝えたいと思って、写真家集団「МФК PHOTOS」に入って撮り始めたのが2~3年前です。

キューバについても、その魅力は十分に伝わっていないと感じています。写真展を通じて、「キューバに行ってみたくなった」や「キューバをもっと知りたくなった」というふうに、純粋にキューバという国そのものに関心を持っていただけると、少しは”この国の未来”に貢献できたのかなと思います。

Q:初日は大雪、冷えこみが厳しいなかでの開催となりました。

寒い季節に、暑いキューバの作品はタイミングとしてどうかと心配していましたが、そのギャップも一興でしょうか。

作品をご覧になった方からは、こんな季節だからか、作品の色、光、そして笑顔など、キューバの明るさや豊かさ、温かなイメージを受けての感想をいただくことが多いですね。

会場のCafé nookさんも期間限定企画としてキューバをイメージした特別メニューをご準備くださり、ご来場いただいた方には、温かい雰囲気の中で写真に囲まれて、ゆったりとした時間を過ごしていただきたいです。

写真展に訪れる人たちと、キューバについて話に花が咲くことも

「会場で、作品そのものだけでなく、テーマや展示構成についても意見をいただけるのがうれしいです」(矢島さん)

 

矢島徹至(YAJ)さん プロフィール
京都生まれ。商社勤務、ロシア駐在中、МФК PHOTOS に加入。それを機に作品としての写真を撮り始める。​帰国後も精力的な撮影活動をこなし、日露文化交流イベントへの作品提供、演奏会のカメラマンを務める。また、演奏会やライブとのコラボ写真展も企画。音とビジュアルの融合もひとつのテーマとして活動している。「被写体と私、その間にカメラがある。常に三位一体の関係です」https://yajimatetsushi.wixsite.com/photography

「Tres razones – 3つの理由 -」 新春写真展
会期:2018年1 月22 日~2 月3 日
場所:“代々木の大人の隠れ家カフェ” cafe nook
住所:渋谷区代々木1-37-3 岩崎ビルB1(03-3373-7009)
JR 山手線/ 都営地下鉄大江戸線「代々木」駅より徒歩2 分
営業時間:月- 金12:00-22:00、土13:00-22:00
1 月28 日(日)はレセプションパーティーのため臨時営業。
入場料:無料。カフェでの開催のため、メニューより1オーダーお願いいたします。

Author Profile

斉藤 真紀子
斉藤 真紀子
日本経済新聞米州総局(ニューヨーク)金融記者、朝日新聞出版「AERA English」編集、週刊誌「AERA」専属記者を経てフリー。共著に「お客様はぬいぐるみ」(飛鳥新社)。趣味はラテン音楽&ダンス、カポエイラ(格闘技)
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