革命家、チェ・ゲバラが世を去ってから50年。自ら撮影した写真が今、日本で初めて公開されています。写真展「写真家チェ・ゲバラが見る世界」の開催に合わせて来日した、長男カミーロ・ゲバラさん(55)に、父の遺した写真への想いについて、インタビューしました。
――今回公開される約240点の写真は、激動の時代を生き抜いたチェ・ゲバラさん自らの貴重な記録ですが、カミーロさんにとって、とくに思い入れが強い写真はありますか?
カミーロさん それぞれに歴史の価値があり、美の追求という面からも、興味をひかれる作品がありますが、僕にとってはセンチメンタル(感傷的)な意味がある。自分の父親の作品ですし、彼の人生の大切な瞬間が映し出されているのですから。
――チェ・ゲバラさんの日記や手紙など、文面からは、たとえば、彼の理論的な考えやロマンチストである人柄なども伝わってきます。彼自身が撮影した写真は、彼のどのような面をうかがうことができますか?
カミーロさん 書いたり語ったり、言葉で表現するときは、いろいろと配慮することもあったでしょう。でも、写真はありのままが投影されます。ときに被写体より、撮る側が多くを語る場合もある。言葉では語れない本質を、彼の写真から発見できるかもしれません。とくに、自撮りした写真は「彼の証言」そのものといえるのではないでしょうか。
――日本で写真展を開くことになったきっかけは?
カミーロさん ほかの国では以前、この写真展を開催したこともありましたが、日本から友人が訪ねてきたとき、話が出たのがきっかけです。チェの没後50年に合わせて開催することができ、偶然、映画「エルネスト」の公開にも重なりました。
通信社の記者兼カメラマンとして映した写真
――これまで公開されていない貴重な資料、たとえば、チェ・ゲバラさんが潜伏生活をしていた、プラハ時代の写真などはありますか?
カミーロさん プラハの写真はないけれど、隠れて生活をしていた時代の写真はあります。母がタンザニアを訪れたときなど、2人とも変装したまま映っていました。あえてその写真を撮ったということは、いつかは子どもたちに見せようと思っていたのかもしれませんね。
――メキシコでプロのカメラマンとして、生計を立てていたというエピソードもあります。チェ・ゲバラさんにとって、写真との関わりは愛好家という以上に大変深いものだったのですね。
カミーロさん そうですね。小さいころから家族の誰かがカメラを持っていて、写真を撮っていたようです。チェが父親からの最初にプレゼントをもらったときも、そのひとつがカメラでした。絵を勉強していたのですが、写真との親和性もあったのでしょう。
写真は独学です。学生時代に中南米を2度旅したときは、カメラを持参していました。 グアテマラで革命が起き、アルベンス大統領による社会主義政権になってから、チェはグアテマラに渡ります。ところが、アルベンスは民族主義的構想を持つなどして、米国などに嫌がられ、政府転覆の企てにあい、政権が打倒されてしまうのですが、それでチェはメキシコに亡命しました。メキシコに渡って、生計を立てるために最初にした仕事がカメラマンだったのです。
そののち、アルゼンチンの通信社に雇われ、メキシコで55年に開かれたパンアメリカン競技大会で記者兼カメラマンも務めました。彼にとって写真は趣味でもあり、また生涯において不可欠なものでもあったわけです。
遺跡に行くときも、事前にいろいろと調べ、そして写真を撮る。写真を撮りたいという気持ちにいつも駆られていて、その数秒間という瞬間を楽しんでいました。それは幼少のころからです。
写真展ではチェと写真との関係について、5つの時代にわけた視聴映像が公開されており、そのなかで詳しく説明されています。
「ゲリラ戦士」よりもチェが目指したかったもの
――没後50周年にあわせて、チェ・ゲバラ研究所でこれから発表される予定の写真や手紙はありますか?
カミーロさん 研究所では定期的に資料の公開をおこなっていますが、今すぐの予定はありません。50周年にあわせて、年報を出す予定です。これまでも25以上のタイトルを発表していますが、研究所創設の目的のひとつは、未発表資料を世に出していくこと。
情報の源は彼自身、つまり、「チェによるチェ」の資料です。誰かの解釈を入れることなく、直接的な資料をもとにして、それぞれに結論を判断してもらうのが目的です。今後の発表のために、整理しているものもあります。
――チェ・ゲバラは革命家として、若い人にはファッションアイコンとして、今も存在感を放っています。もっと知ってもらいたいチェの側面はありますか?
カミーロさん チェは社会の建設者で、変革者でした。彼にとって重要課題は、「人類によりよい環境をもたらしてくれる、経済的、社会的メカニズムを造ること」。その思い、哲学、政治的信条などは、公開されている資料で知ることができます。
けれど、彼は変革者であったゆえに、「ゲリラ戦士」という狭い枠に閉じ込められてしまうこともあります。ゲリラは最終的な手段であったわけですが、最終到達点は、「社会の変革」でした。彼がエネルギーすべてを捧げて求めたのは、その社会の土台をつくる、分別のある人間、新しい人間を創造するためのシステムだったのです。 (終わり)
「写真家チェ・ゲバラが見る世界」は東京・恵比寿ガーデンプレイス、ザ・ガーデンルームで、8月27日まで。開催時間は10時30分~20時。詳細はホームページ(http://che-guevara.jp/)で。
※写真展の開催時間が30分早まりました(8月14日変更)
Author Profile
- キューバ倶楽部編集長、ライター。ニューヨークでサルサのレッスンを受けたのをきっかけに、2000年に初めて訪れたキューバが心のふるさとに。
旅をするたびもっと知りたくなるキューバを訪れ、AERA、東洋経済オンライン、TRANSIT、ラティーナ、カモメの本棚、独立メディア塾ほか多数の媒体で記事を執筆。
2015年にキューバの現地の様子や魅力を伝える「キューバ倶楽部」をスタート、旅の情報交換や勉強会、講演会などのイベントも運営。
★キューバのエッセンスを生活に取り入れる日々をnote(https://note.com/makizoo)に綴る。
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