【インタビュー】留学ジャーナル編集長が見たキューバの「幸せ感」

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留学ジャーナル編集長、毛利氏

海外留学の総合情報誌雑誌『留学ジャーナル』の編集長、毛利章子さん。(ハバナのボデギータにて撮影)

 

キューバで街を歩いていると、「生きている」という実感がわいてきます。人が人と関わろうとするからでしょうか。女性が街を歩いていると、かけ声がとんできますしね。私が訪れたのは、2013年7月でした。

 

クラシックカーが走る、街のビジュアルは、知ってはいても実際に目にすると完全に魅了されました。あれ以上格好良い風景写真はなかなかない。作ろうと思っても、作れるものではない。人びともどこか誇らしげに、胸をはって歩いている。あのように生命力のあふれる感じは、いまの日本にないなと思いました。残念ですが。

 

「何も所有していない」ような、貧しい暮らしぶりなのに、人がからっとしていて明るいのです。だからこそ生活を楽しもうという気持ちがあるからかな。

キューバで日本の「アニオタ」に出会う

キューバのアニオタたち。

キューバで出会った明るくて茶目っ気たっぷりなアニオタたち

 

友人の紹介で、現地の「アニオタ」(アニメーションオタク)に会ったのですが、茶目っ気たっぷり。日本のアニメをよく知っている、10代~20代の男女5~6人で、私が「昔、コミケ(コミックマーケット)に出て、同人誌を出していた」と話したら、みんなコミケを知っていて、「尊敬するよ!」と言われました。彼らは日本語の単語もいくつか知っていて、インターネットも自宅にはなく郵便局のような所でしか見られないのに(しかも速度もとても遅い)、何度も観て覚えたのだそうです。

 

キューバのアニオタたちとみんなで喫茶店に行き、メニューを見て注文しようとしたら、ウェイターに「それはありません」「これもありません」と言われ、結局あったのはコーラだけ。リストにたくさんあって、いかにもたくさんものがあるように見えるけれど、実際はひとつしかない。「これがキューバなんだよ」と、みんな苦笑していました。そしてメニューのコーヒーを指さしては「明日はあるよ」、違うのを指さしては「明後日はあるよ」と言いながら、ふざけあっていました。

 

コーラが来ると、「イェーイ」なんて言いながら、自分のと、友だちのを入れ替えて遊んでいたり。流行りのTV番組の話題や携帯アプリがなくても、会話とウィットで、その場をそこにいる人たちと楽しんでいる。

いつも飲み代を払うキューバの男の子

ハバナの世界遺産、モロ要塞にて。

ハバナの世界遺産、モロ要塞にて。毎晩、この大砲を撃つ儀式があります

 

コスプレ好き男子は、「キューバは服が高いから、布地屋さんで布を見つけて自分で作るんだよ」という話をしていました。手づくりなのですね。

 

その子たちと、また別の日にモロ要塞(注)に行きましたが、「親がアメリカ合衆国にいて、医者をしている」という男の子が、ほかの子たちみんなの入場料を払っていたのです。見ていると、いつも飲み物代などもその子が払っていた。「どうしてあなただけがお金を出しているの?」と聞くと、その男の子は「今は払える環境にいるので自分が払う。だけど、いつかもし僕が困ったら、彼らはきっと僕のことを助けてくれる。だからいいんだ」と話してくれました。友達とそんな絆を築けるのは、不自由な環境があるからこそかもしれないけれど、素敵ですね。

(注)モロ要塞…ハバナにある、灯台がある要塞。博物館もあり、毎夜9時に大砲が発砲される儀式もあるので、観光客でにぎわっている

 

道を歩きながら、キューバの生活についても教えてもらいました。くず落ちそうな家も多く、天井が落ちたり、床が抜けたりすることもあるといいます。最近になって法律が変わったけれど、以前は住むところも政府が決めていて、修理するのも大変だったという話を聞きました。

 

彼らのひとりが自宅に招いてくれました。簡素な家具に、インターネットはなし。お茶で精一杯のもてなしをしてくれました。配給制の食材リストには、チキン、ポーク、ビーフなどと書いていても、実際はチキンしかなかったりすることも多く、品切れになったら、その月には手に入らないこともしょっちゅうだそう。薬も同じで、頭痛薬が欲しくても、欲しい人が多ければ入手できない。だから、結局ブラックマーケットに行くのだそうです。

現地のペソを使ってみたら

キューバの街並

ハバナのメルカド(スーパーマーケット)の風景。お店の人は力こぶをアピール

 

一度、現地のペソを使ってみようと思って、外国人向けの通貨・兌換ペソ(CUC)から人民ペソ(CUP)に両替しました。人民ペソは人々に人気のチェ・ゲバラの顔が印刷されているデザイン。価値はその時1:24。外国人にとっての1ペソがネイティブの24ペソです。外国人が買うものは基本兌換ペソで物価は日本よりも安くはありますが、人民ペソだと、1、2ペソから現地向けのさまざまなものがあり、一気に買えるものが増えるイメージです。100円が2,400円の価値になる、と考えたらわかりやすいでしょうか。職業選択の自由が少ない彼らが外国人に多少料金を上乗せしたくなるのも、無理からぬものです。

 

実は滞在中、定価とは思えない金額を何度かふっかけられたこともありました。少し話していればそれがわかるのですが、最初厳しく交渉していたものの、茶目っ気ある彼らに、時には払ってもいいか、という大らかな気持ちになったこともあります。

 

そんなこともありましたが、笑えた出来事もあります。チェ・ゲバラの家(博物館)に行こうと、タクシーを拾おうとしていたら、「車で送ってあげる」と声をかけてきた男性がいました。提示してきた値段がタクシーと変わらなかったので、「高いんじゃない?」と言ったら、それがきっかけでいろいろ話をし始めました。結局、それからお金の要求もせずにゲバラの家まで送ってくれたのですが。

 

話しているうちに、その運転手が「だんだん君のことを好きになっちゃった。見てごらん、僕の手が震えているでしょう」と言うのです。「ここで明日も、君をずっと待っているからね」と。次の日、その場所をたまたま車で通りすぎたので、ちらっと見てみたら、案の定、「やっぱりいない!」(笑)。 言うことはめちゃくちゃですが、なんだか憎めない人たちなのでした。

ぼろぼろの服に恥じることなく、クールに踊る

キューバでよく見かけるクラシックカー

ハバナの街並みと、キューバでよく見かけるクラシックカー

 

キューバで印象に残っているのは、クラシックカーのみならず、女性も男性も、誇らしげで颯爽としていたことです。観光名所の旧市街のレストランでは、ぼろぼろの服を着て、店から流れるライブ音楽に合わせて踊っている老人がいました。彼は店に入れないんだろうけど、それを恥じることなく、人が見ていようといまいとクールにキューバの音楽を踊る。海岸ではカメラを向けると堂々と自分がとった魚を突き出すおじさんがいる。女性は自分の魅力を全開に街を闊歩する。そして冒頭でもお話ししたように、ちょっと素敵と思うと男性がためらいなく女性に話しかける。その生きっぷりが、格好良いと思いました。明治の頃までは、タイプは違えど日本人も誇りを持って生きていたはずなのに、いつから私たちは自信をなくしてしまったんでしょう。

 

そもそも、なぜキューバ人は幸せか、という斉藤真紀子さんの文章に惹かれて行った旅でした。世界でGDP3位の日本人が、なぜ多くのストレスを抱え幸せを実感していないのか。そう思っているときに、キューバという国が目を捉えました。その疑問の一部を、アニオタの子たちが見せてくれた友情や、店の外で踊る彼らに、答えてもらった気がします。

 

【プロフィール】毛利章子(もうり・あきこ)

海外留学の総合情報誌雑誌『留学ジャーナル』の編集長。取材やプライベートで40回以上海外を訪ねている。キューバ倶楽部の編集長が書いた週刊誌『AERA』の記事をきっかけに、2013年キューバを訪れ、「ハバナ大学に大砲が置かれていたのが印象的でした」

Author Profile

斉藤 真紀子
斉藤 真紀子
日本経済新聞米州総局(ニューヨーク)金融記者、朝日新聞出版「AERA English」編集、週刊誌「AERA」専属記者を経てフリー。共著に「お客様はぬいぐるみ」(飛鳥新社)。趣味はラテン音楽&ダンス、カポエイラ(格闘技)
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