【取材レポート】ローリング・ストーンズライブ@キューバ

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キューバのストーンズファンたち ライブを待つストーンズファンたち

■熱狂を伝える各国メディアの見出しに対し感じた違和感。

ミック・ジャガーはスペイン語で、「キューバのごはんも食べたし、音楽も聴いたよ」とフレンドリーなMCを繰り広げていました。

まるで宇宙からきた華やかなミックが地球人に話しかけているような、錯覚を起こしてしまいました。  

途中、近くで老人が倒れると、ものすごい速さで赤十字の救急隊員がものの数秒で駆けつけ、ストレッチャーで運んでいきました。  

歓声をあげる人。立ち尽くす人。円陣を組んで走り回っている人。一緒に歌う人。動かない人。写真を撮る人。ステージから離れていくと、徐々に熱狂のトーンも下がっていきます。

アンコールの「サティスファクション」のころには、私の友だちやキューバ人男性たちも帰ってしまい、地元の人たちと何時間もひたすら歩いて帰途につきました。  

「放送禁止曲をストーンズ敢行」 「歴史的コンサートに50万人が熱狂」 「ロックコンサートで歴史的な転機を迎えたキューバ」  

こうした見出しが各国のメディアにおどると、「あれ?」と違和感をおぼえずにはいられませんでした。  

■キューバの音楽好きたち〜日常生活に根付く音楽文化〜

ライブの様子

何十万人も一同に会し、あれほど華やかなコンサートでお祭り騒ぎをしたのは、たしかに歴史的かもしれない。けれど、ストーンズがまるで、「ロック音楽に飢えたキューバ人を救いにきたような」言い分だったからです。  

もちろん、ロックファンのキューバ人も、ストーンズ大好きな外国人も多数押し寄せていていたけれど、キューバ人は「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」が演奏する伝統音楽「ソン」やサルサばかり聴いているわけではありません。

実際、コンサートに行った人たちから、こんな声を聞きました。  

「ふだんはエレクトロが好き」(10代男性)
「とくにストーンズファンではないけれど、外国に行けないから、この機会に行きたかった」(30代女性)
「ビートルズやクィーン、ストーンズはよく聴いている」(30代男性)
「好きなロックバンドはリンケンパークなどの米国ロックバンド」(20代男性)  

ここ10年ぐらい、キューバを何度か訪れて感じているのは、音楽好きの層が厚いこと。日本のアニメ好きの若者にボニーピンクの歌を口ずさまれたこともあります。

ロックはもちろん、R&Bも、ポップも、ディズニーも、サルサも、レゲトンも、歌えるぐらい聞きこんでいる人が多い。音楽が生活に根付いているのです。  

キューバはモノ不足なだけでなく、娯楽もあまりありません。だから週末は、大人も子ども外に集まって話をしたり、音楽をかけて踊ったり、遅くまで楽しんでいます。

2008年にハバナを訪れたとき、野外の公園に人が集まって、ラジカセを囲んで踊り、笑い、歌っていた人たちの熱気が忘れられないのですが、今回のローリング・ストーンズの熱狂も、そんなふだんの生活の延長線上にあると感じました。  

■ありあまるキューバ人たちのエネルギーとその背景。

イベントスタッフたち イベントスタッフたち。  

では、ほんとうにロックは「放送禁止」なのか。トラベル・ボデギータ代表で、キューバの帰国子女でもある清野史郎さんに聞きました。

清野さんによると、革命直後はフィデル・カストロ元国家元首が「エルヴィス・プレスリーを聴くようではまじめさが足りない」と演説で吐くこともあったようです。  

「米ソ冷戦時代、1990年ぐらいまでは、警察官などが英語のロック音楽を『反革命』とみなして、うるさがっていたころもありました」(清野さん)  

最近は中南米の人気歌手によるコンサートも開かれるようになってきていますが、キューバにストーンズのようなミュージシャンが長い間来なかったのは、「興行収入が得られない」という理由も大きいようです。  

もちろん、今回のコンサート会場にも、記念のTシャツ販売など、物販はありませんでした。今回のローリング・ストーンズの無料公演も、アーティストのギャラはなし、600万ドルかかったといわれる、立派な機材はカリブ海のキュラソー島の人たちがプロデュース代を工面したのだとか。  

それでも、今のキューバに、世界のミュージシャンは来て無料コンサートを開きたいのではないか。そんな勘繰りもしたくなりました。

ストーンズのコンサートでまるで異次元の星に飛んだような、ステージと観客の共鳴でした。  

いつも、キューバに滞在すると、「一緒にこれを歌おう」、「あれを歌おう」と若者に誘われるのですが、アメリカの歌も全然歌えない私。

キューバの音楽のみならず、世界の曲を知らないのは、いつも自分のほうです。  

そこには「放送禁止の曲」がようやく聴けたという熱狂というより、ふだんの生活の延長線上にあるキューバの人びとのありまるエネルギー、音楽へのあくなき愛情、外国に行きたいけれど行けないフラストレーション、週末の過ごし方、いろんな要因があるのではないかという印象を受けました。  

ストーンズの音楽で「キューバの歴史が動いた」というのは、外国人である私たちが、「そう感じたかった」という現実に過ぎないのかもしれません。

それは、キューバの人たちが「今を存分に楽しみたい」と思う気持ちと、ずれがあるのではないかと感じました。

  (2016年4月2日一部修正、更新しました)

【編集部より】 当日の写真アルバムはこちらのページよりご覧いただけます! →2016年3月!ローリングストーンズライブ@キューバのアルバム

Author Profile

斉藤 真紀子
斉藤 真紀子
日本経済新聞米州総局(ニューヨーク)金融記者、朝日新聞出版「AERA English」編集、週刊誌「AERA」専属記者を経てフリー。共著に「お客様はぬいぐるみ」(飛鳥新社)。趣味はラテン音楽&ダンス、カポエイラ(格闘技)
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