ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブにならう、人生100年時代の輝き方

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晩年に、思わぬスポットライトが当たった、キューバのミュージシャンたち。彼らの人生はどう変わったのか。音楽ドキュメンタリーの続編、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」には、人生100年時代に輝いて生きるためのヒントがありました。

© 2017 Broad Green Pictures LLC 

ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブの歌姫、87歳のオマーラ・ポルトゥオンドさん(左)今秋も来日予定© 2017 Broad Green Pictures LLC

人生100年時代がくるといわれます。長寿国である、日本やキューバでは100歳を超えている人は珍しくありません。しかしながら、80歳を超え、90歳をまたぎ、人間はこれだけ輝きを放つことができるのか。そんな発見を得られたのが、このほど公開となる、音楽ドキュメンタリー「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」でした。

この作品は、1999年に公開され、世界で大反響をよんだ「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」の続編です。米国のギタリスト、ライ・クーダがベテラン音楽家や、かつて第一線で活躍していた、キューバのミュージシャンたちに声をかけ、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」(以下、ブエナ・ビスタ)というバンドで再スタートを切り、アルバムをプロデュースしました。

その軌跡をヴィム・ヴェンダース監督が、同名の音楽ドキュメンタリー映画で追いかけ、世界で注目が集まりました。続編は、それから18年を経て、そのメンバーたちの来し方、行く末をたどった作品。この世をすでに去ったミュージシャンたちの最期の様子も収められています。

命ある限りステージに立つ

命ある限り、ステージに立つブエナ・ビスタのミュージシャンたち。かつて演奏していた、キューバの伝統音楽「ソン」を奏でる、その音は、過去の栄光ではありません。ありったけの情熱を「今」の演奏にこめる。

だからこそ、聴く人の胸を打つのでしょう。若いときにつちかった音楽の素養、プロとして活動できなかったときの人生経験、思いがけず与えられた機会であること、すべてがあいまって、大きな花を咲かせることができた。

敵対していた米国でも、大人気となったブエナ・ビスタ。映画のなかで、キューバと米国が国交回復を果たした後、メンバーがホワイトハウスに招かれる場面があります。オバマ米大統領は「自分もこの人たちみたいに、かっこよく年をとれるかな」と、歓迎のスピーチをしました。

© 2017 Broad Green Pictures LLC 

情緒あふれる歌声のイブラハム・フェレールさん(左)と、艶やかな音色のピアニスト、ルーベン・ゴンザレスさん(右)© 2017 Broad Green Pictures LLC

革命とミュージシャンの人生

かっこよくて、艶やか。たしかに、ブエナ・ビスタのミュージシャンしかり、キューバには、街に粋な高齢者がわんさといます。年齢にこだわらないおしゃれを楽しみ、色気があって、話をすれば、茶目っ気にあふれていてチャーミング。しかし、齢を重ねたブエナ・ビスタのミュージシャンたちが私たちの心をつかむのは、決して彼らのたたずまいが粋だから、というだけではありません。

決して彼らは映画人気にあやかることなく、情熱を燃やし、年を重ねてさらに、あふれんばかりの輝きを放った。ミュージシャンが、映画のなかで、ひとり、ふたりとこの世に別れを告げる場面では、「まだあなたの音楽を聴きたかった」と無念さがあふれてきました。

ブエナ・ビスタのミュージシャンたちがここまで輝く背景には、「今は永遠ではない」という思いがあるのかもしれません。映画でも説明されていますが、キューバは革命後、それまで米国と関わりの深かったエンターティンメントが制限され、プロとして活動していたミュージシャンたちが憂き目をみた時期もありました。楽器が手に入らない、演奏する場がないといった理由で一度は音楽をあきらめたケースも多かったのです。

観光客向けに盛んに演奏される、伝統音楽「ソン」

時代は変わり、今キューバでは街のここかしこで、ブエナ・ビスタが奏でていた伝統音楽「ソン」が、観光客向けに披露されています。キューバで音楽家の層は厚く、伝統音楽にかかわらず、新しい音楽に挑戦する若いアーティストもいれば、国内外でライブ活動に勤しむベテランの演奏家もいる。

私もキューバに行くたび、ライブを楽しみにしています。刺激的な音やリズムに理性がふっとびそうになることもあれば、まれに同じ歌詞の繰り返しが単調で眠くなることも。

キューバらしいリズムのよいアップテンポな楽曲でも、ミュージシャン次第でライブの空気はいかようにもなるのです。

桂歌丸さんとブエナ・ビスタ

ブエナ・ビスタで忘れられないのは、ピアニストのルーベン・ゴンザレスさんの演奏です。第一作目の映画の公開後、まもなくして、ニューヨークでライブを聴いたのですが、一音響かせるだけで、ぐっと心がつかまれる。光に包まれるような、愛しいような、あたたかい心持ち。どう練習を積み、どう生きれば、そんな音が出せるのか。

2003年に84歳でこの世を去るまで、ステージに立ち続けたルーベン・ゴンザレスさんの演奏をなつかしみながら、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」を鑑賞したあと、落語家の桂歌丸さんの訃報が入ってきました。病を抱えながらも、高座に上がろうとしていた姿が、ブエナ・ビスタのミュージシャンたちの姿に重なりました。

歌丸さんは生前、自らの戦争体験や、平和への想いを語っていました。すべてをかけて打ち込める「今」が有限であることを、身をもって体験していたのではないかと思います。

© 2017 Broad Green Pictures LLC 

2016年来日公演も。現メンバーによる最終ツアー© 2017 Broad Green Pictures LLC

100歳になって輝く生き方

人生100年時代とはいえ、100歳でスポットライトを浴びる人はほんの一握りかもしれません。とはいえ、ありうるだけの情熱とともに「今」を生きる。そんな晩年があるのだということを教えてくれたのが、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」でした。このミュージシャンたちなら、200年生きようとも、演奏を続けたことでしょう。

さておき、ニューヨークでブエナ・ビスタのコンサートを観に行ったとき、会場の裏口で出待ちをしていたときのことを思い出しました。イブライム・フェレールさんが裏口から出てきたので、コンサートの感想を伝えると、自分たちを待っていたのが信じられないという表情ではにかみながら、「ありがとう」と言い、「寒くないの?」とこちらを気遣ってくれました。

こんなに気さくでシャイで、慎み深いふつうの(ごめんなさい)おじさまが、ステージで大勢の観客の心をぐっとつかむなんて、そのギャップにいささか驚いたのですが、今回「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」を観て、なるほど!と、合点がいったのでした。

★映画情報『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』
7月20日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
配給:ギャガ
★7月26日(木)下北沢ボデギータにて、映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス』をより深く楽しむためのトークイベント、第19回キューバ倶楽部プレミアム「映画ブエナ・ビスタと昨今のキューバ音楽♬」を開催します。お楽しみに!

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斉藤 真紀子
斉藤 真紀子
日本経済新聞米州総局(ニューヨーク)金融記者、朝日新聞出版「AERA English」編集、週刊誌「AERA」専属記者を経てフリー。共著に「お客様はぬいぐるみ」(飛鳥新社)。趣味はラテン音楽&ダンス、カポエイラ(格闘技)
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