映画「セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー」☆ここに注目☆まとめ

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公開中のキューバ映画「セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー」の見どころ、注目ポイントをまとめました。コメントは、11月27日にキューバ倶楽部プレミアムでお話いただいた、ゲストスピーカーの方たちによるものです。 

中南米の映画やドキュメンタリーの翻訳を数多く手がけている杉田洋子さん(映像翻訳家)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で宇宙開発に携わってきた藤本信義さん、トラベルボデギータ代表の清野史郎さん、キューバの音楽も歌われている、歌手の岸のりこさん、ありがとうございました。

©2017 MEDIAPRO - RTV Commercial - ICAIC

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つらい時代と人びとの明るさ

舞台となった1991年はキューバが経済的につらい時代。しかし、悲壮ななかにも明るさを感じる楽しい映画。ー杉田さん 

空撮で上から降りていく、ハバナの街並みに目を奪われました。石造りの建物がヨーロッパに近く、雰囲気が古代ローマの街並みに似ている感じがしました。ー藤本さん 

留学のため、90年からキューバに滞在していました。留学先の友人たちも経済状況に危機感を持って話題にしていましたが、人びとは明るくてエネルギッシュ。その大変な現実をも、話題にして楽しんでいた。先の方向をたくましく見ていて、むしろ今よりいきいきしているような印象さえあります。ー岸さん

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女性たちの活躍が目立つキューバ社会

主人公たちは男性ですが、女性がどれだけキューバで活躍していたかを示すように、上司にあたるキャラクターがことごとく女性でした。 セルジオの上司にあたる学部長や、政府の監視役も女性で、部下の男性がご機嫌を伺っています。セルジオのお母さんも現実をみて、家族を救うことに一生懸命。娘さえも天真爛漫でたくましい。 

男性たちがロマンチックで誇りを大事にしていて、より大きな船を造ろうとしていることに対して、女性は船が沈まないようにしている感じが、我々にも通じる、女性の現実主義と映ります。生徒のポーラさんも出てきますが、この方もすごいですよ。女性の強さに着目していただくと面白いと思います。ー杉田さん

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宇宙をも超える友情

実際の人物をもとにしたストーリーですが、そこからの発想がロマンチック。国、イデオロギー、出自を超えた友情に心が熱くなりました。 ひとつ好きな台詞がありました。「スパシーバ、コンパニエーロ!」と、無線でセルゲイが宇宙から、キューバのセルジオに呼びかける場面です。 

「スパシーバ」はロシア語で「ありがとう」、「コンパニエーロ」はスペイン語で同志を表す言葉。ロシアとキューバの同志という言葉で呼びかけ合う。そこにぐっときてしまいました。ー杉田さん

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小道具もリアル

小道具も注目すると面白いですね。キューバの無線機が出てきますが、お金がないので、自分で電気を起こしていたり、アメリカからいい機材が届いたりする場面があります。 

1991年当時、あのころはジョブズ不在のアップルは下り坂でした。キューバの(秘密警察のような)監視役の女性の部屋にIBMのパソコンがあって、「ああいう機械だったな、いじっていて面白かったな」と思い出しました。宇宙船の中もそうですし、機械や電気系統が好きな人からみると、小道具がよくできています。ー藤本さん

宇宙船の現実を細かく再現

今回出てくるミール宇宙ステーション、1986年に打ちあがって、2001年ぐらいまで使われていました。内部もよく再現されていて、窓からみた地球の風景もそのままですね。 

宇宙ステーションはどれくらいの高さで飛んでいると思いますか? ミール、中国や国際宇宙ステーションは高度400キロぐらいを飛んでいます。東京から名古屋くらいの距離で、地球の直系が1万3千キロですから、意外と地球から近いところを飛んでいる。宇宙船からは窓の下に、真っ青な地球がいつも見えている。その情景もしっかり映されています。 

宇宙船の外に、セルゲイが宇宙服を着て出る場面がありますが、宇宙は風がない世界。旗もはためかない様子が描かれています。ー藤本さん

©2017 MEDIAPRO - RTV Commercial - ICAIC

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宇宙ステーションが危機一髪になる場面があります。今問題になっている、宇宙ゴミ(スペースデブリ)が飛んできて衝突して宇宙船が破損する部分も描かれていて、リアリティがあります。 

宇宙飛行士とアマチュア無線で交信するのも実際にできますし、宇宙ステーションのなかにアマチュア無線の機材が積んであります。ただ地球上では、宇宙ステーションが自分の頭上を通過している短い時間の間しか交信できない。そこもリアルに描かれていたところです。ー藤本さん

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したたかに生きる人びと

セルジオの友人が屋上で何かを作っているのですが、それが最初は、何なのかがわかりにくい。(ここで、それが何であるか、配給元のアルバトロスさんが、ネタバレではないのでOKを出してくれました)。実はいかだ、あるいはボートです。 

経済的な苦境にあえいだ時代において、この後、1994年も手製の船で、キューバの国外に、出る人がひじょうに増えました。この友人は先見の明があったのですね。誰かが来ると、あわててセルジオが「隠せ」と注意したり。ほかにもこの時代を生き延びるため、したたかに生きているキューバ人の感じが面白い。ー杉田さん

©2017 MEDIAPRO - RTV Commercial - ICAIC

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セルジオが自転車に乗っている場面がよく出てきます。エネルギーが不足して、停電のシーンも。計画停電のアナウンスがあったり、印刷するお金がなかったり。このころ新聞、雑誌も減らされ、セルジオがその状況に巻き込まれていきます。自転車が中国から輸入されたことも、関係あるかもしれません。ー杉田さん

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宇宙飛行士の使命感

セルゲイさんは、本当にロシア人の宇宙飛行士のような雰囲気です。宇宙飛行士の職業倫理感は一般的に高く、使命感に燃えていて、与えられた環境で最善を尽くす。宇宙ステーションにひとりで残ることは実際にはないですが、それ以外のところは、映画のような感じです。 

宇宙飛行士になりたいと思った人はいますか? 実は定期的には募集していません。日本で最初に宇宙に行った人は職業飛行士ではなくて、TBS社員の秋山豊寛さんで、1990年の終わり、ソ連が崩壊するちょっと前でした。TBSが40億円くらいお金を出したと聞いていますが、ソ連のミール宇宙ステーションに送られました。日本はバブルのころですね。 

ソ連やキューバが大変だったころ、日本は少なくとも見かけはまだ、経済的に元気でしたし、私自身もキューバの対岸のフロリダで、JAXA(当時はNASDA)が豊富な資金をつぎ込み、宇宙開発実験に関わっていました。ー藤本さん

宇宙競争のきっかけは冷戦前から

米ソの宇宙競争は冷戦から始まったと思われているが、冷戦は宇宙競争の推進力とはなったものの、きっかけは1957年の国際地球観測年です。太陽黒点の活動が盛んになるとき、世界で66か国の科学者が集まって、地球の大気や海洋を観測しようというキャンペーンをはりました。 

日本も敗戦から12年、やっと参加が認められ、南極を割り当てられて、昭和基地をつくりました。日本も駆け足でロケット開発をして、1958年後半に高度50キロを超えるロケットを打ち上げた。マイナーですが、日本もがんばっていたんですね。ー藤本さん

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米ソ冷戦時代の宇宙競争

米ソ冷戦時代、ソビエト連邦のほうが宇宙開発戦争には勝っていました。最初に人工衛星を挙げたのはソ連ですし、ソ連の宇宙飛行士ガガーリンは1961年に世界最初の宇宙飛行を成功させ、63年に初の女性で初めて宇宙飛行したテレシコワもソ連出身、最初に火星や金星に探査機を送ったのもソ連でした。 

一方、月は米国が69年に初の月面着陸を果たしました。ケネディが米大統領になった60年代、月に人類を送り込もうと”We choose to go to the moon.” と演説しますが、私は、戦争に向かっていくエネルギーを、戦争とは関係ない、「月に行く」という方向に持っていったのではないかと思っています。 

戦争ではなくて、オリンピックのように、軍事ではない方向で競争を社会発展に結び付けるのは、ケネディが遺した叡智だったように思えます。ー藤本さん

©2017 MEDIAPRO - RTV Commercial - ICAIC

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キューバ映画らしさ

中南米の映画とハリウッド映画を比べると、ゴールデンタイムと深夜番組ぐらい違いがあります。中南米の映画は、リテラシー(理解・分析・判断力)を求められる作品が多く、答えをはっきり出し切らなかったり、メタファーが多かったり。 

なかでもとくにキューバは短い期間のなかでさまざまな時代を乗り越えてきた国なので、革命前、革命前後、ソ連の崩壊に伴う変化があり、そうした変化を何か思い出せるヒントがあったりします。 もし知らずにみても作品として面白いですが、時代背景を知って、今回は宇宙の知識もですが、2度、3度観たら、また面白いのが、キューバ映画であり、中南米映画なのですね。-杉田さん

セルゲイはマフィアのボスも演じた俳優

セルゲイ役のロシア人に扮した、キューバ人俳優ヘクター・ノアさんはエルネスト・ダラナス監督が映画祭で上映した「壊れた神々」(原題”Los Dioses Rotos”)(2008)に出演していました。その作品の字幕を付けたのですが、見覚えがあるなと思ったら、そのときはポン引きのマフィアのボスのような役で出ていて、すぐに気が付きませんでした。 

今回こそ、やさしくて家族を愛する、使命感に燃えた宇宙飛行士で出ているのですが。 キューバのエルネスト・ダラナス監督はいま、世界的に活躍しています。ひとつ前の作品、「ビヘイビア」(14)も含め、とても注目されています。 

キューバの映画字幕は積極的に手がけ、40本のうち11本くらいがキューバに関する作品ですが、そのなかで、キューバの監督が撮ったキューバに関する作品はあまりなかった。ほかの国が制作したキューバに関する作品がひじょうに多いのです。 キューバは舞台に成り得る魅力的な宝庫です。 

キューバの別の作品でおすすめは「低開発の記憶」。革命直後、セルヒオ(セルジオ)という主人公が時代に翻弄されますが、奇しくもこの映画の主人公と同じ名前ですね。そして、30年後、政変に翻弄される男性の物語が出来上がりました。「苺とチョコレート」(1994年)も、同じトマス・グティエレス・アレア監督ですので、これらの作品も併せて観ていただくと面白いかもしれません。

©2017 MEDIAPRO - RTV Commercial - ICAIC

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緊張感あふれる時代背景

自分もこのころ、キューバに滞在しましたが、1989~91年はキューバが非常に困窮した時代ですね それが、そのまま再現されています。多くの人が経済的な困難から逃れるために米国に渡りましたが、イカダ造りをビジネスにした人もかなりいました。 

秘密警察のような立場の女性が出てきますが、国家防衛のための諜報活動を担う国家安全局の人間だと思います。厳しい態度だったのは時代背景があります。ソ連が崩壊して、次はキューバだと、米国内では反革命分子が対キューバ工作、挑発活動が激増しました。なんとかキューバをつぶそうとした時期でもあったのです。 

そのころ大統領はブッシュからクリントンに代わりましたが、米政府がキューバを内から崩壊させようと対キューバ制裁を強化していました。ー清野さん

10年前には上映できなかったこと

2018年になって、キューバのなかでかつて映画にして放映しにくかったこと、たとえば、キューバの国から逃げるためにいかだを作ったということなどが、盛り込まれました。10年前だったらキューバの映倫にかかって、おそらく上映できなかったと思います。 

キューバの秘密警察についても、映画のなかに出すのは難しかったでしょう。 それができるようになったのは、キューバの環境が変化したこともあるでしょう。本当はキューバ政府にとっては、困るようなことを映像に出すのを、ICAICがベルリンの映画祭に出したりしている。政府、国としてこの映画を認めているということです。 革命後の不寛容さがテーマに出てくる『苺とチョコレート』(1994年)も、当時キューバではテレビで放送したけれど、映画館で上映するのに時間がかかりました。 

かつて都合の悪いことは口封じをした官僚の声が大きかった。 キューバでも、「あとで考えたら間違っていた」ということがあったとしても、それを言えるか言えないかはまた別の問題です。今になって、国として客観的に、革命後、約60年間歩んできた歩みをとらえるようになってきたということではないでしょうか。ー清野さん    

 

☆映画「セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー」の公式サイトはこちら

Author Profile

斉藤 真紀子
斉藤 真紀子
キューバ倶楽部編集長、ライター。ニューヨークでサルサのレッスンを受けたのをきっかけに、2000年に初めて訪れたキューバが心のふるさとに。
旅をするたびもっと知りたくなるキューバを訪れ、AERA、東洋経済オンライン、TRANSIT、ラティーナ、カモメの本棚、独立メディア塾ほか多数の媒体で記事を執筆。
2015年にキューバの現地の様子や魅力を伝える「キューバ倶楽部」をスタート、旅の情報交換や勉強会、講演会などのイベントも運営。
★キューバのエッセンスを生活に取り入れる日々をnote(https://note.com/makizoo)に綴る。
★Twitter: @cubaclub98 ★ Instagram: @cubaclub98
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2 thoughts on “映画「セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー」☆ここに注目☆まとめ

  1. とても良くわかる映画のポイント、ありがとうございます。写真も素敵です。もう一度観たくなりました。

    • うれしいコメントをいただき、ありがとうございます。見どころがたくさんある映画ですね!

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