アートの底から湧き出る感情~キューバのマベル・ポブレット展

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大西洋とカリブ海に囲まれる島国、キューバ。その海をテーマにした、キューバの若手アーティスト、マベル・ポブレットの展覧会に行ってきました。

入口のQRコードで説明を読み取ると、ひとつひとつの作品の見た感じ、デザインのねらい、どんな社会背景に通じるのか、鑑賞者は作品とどう向き合うか、アーティストが作品にこめた想いや人生哲学などが、思いのほか雄弁に語られていました。

たとえば、無数の花をピンでキャンバスにとめ、海の水面がさざめくような作品がありました。

タイトルはNON-DUALITY(非二元論)とあります。要約をまじえて、説明を引用すると、

「水面に反射する太陽の光のような、キラキラとした表面をよく見ると、無数の透明なプラスチック製の花が丁寧にピン止めされている・・・

海で命をかける移民を暗に示していて、花は吉兆を願って捧げられた供物のようでもある。あるいは、航海を終えることなく命を落とした死者たちを悼み、水面に投げ込まれた花輪のようでもある・・・」

キューバから命がけの移民が相次いだ背景

社会背景としては、キューバから米国への移民をめぐる状況があります。

キューバと外交上敵対関係にある米国は、1966年~2017年までキューバ人を移民として優遇する「Wet foot, Dry foot」(海上で見つかれば送還されるが、国境に到達できれば米国に受け入れる)といわれる政策がありました。

一般的に、外国人が永住権を取るのは難易度が高いのですが、米国はキューバからの移民を歓迎することで、現政権にダメージを与えるべく、「頭脳流出」をねらっていたとされます。

2013年にはキューバ人の海外渡航が自由化され、飛行機に乗る人も増えましたが、1990年代などは手作りのいかだやゴムボートでフロリダ海峡を渡ろうとして、命を落とす人が相次ぎました。

ワンピースの模様にしたくなるデザイン

「ポブレットさんはどのような想いで花をひとつずつピンでとめていたのだろう」と息をひそめていたら、隣から明るい声が響き渡りました。

「私、この花柄のワンピースが着たい」

隣で鑑賞していた女性たちが、高揚して話していたのでした。

ポブレットさんの作品は、細かいパーツの積み重ねで完成した作品が多いのですが、ひとつひとつの小さなデザインにも優雅さがあふれています。会場となっているシャネルのビルにふさわしく、装いたくなるほど洗練されているのです。

「説明を読む前に、作品を観ておきたかった」と思ってしまいました。

 

スマホで写真撮影して浮かびあがった物語

蝶のかたちのモチーフを数多く組み合わせた作品がありました。

色のグラデーションが全体にちりばめられているのですが、スマホで写真を撮ってはじめて、奥底から「絵」が浮かび上がってきたのです。

私の身長や会場のスペースゆえに、俯瞰が足りなかったからかもしれません。

一見するとやさしくて美しいけれど、視点を変えれば、心を揺さぶられる物語が浮かんでくるのです。

海のような包容力を持つ作品の数々

キューバの人たちが移民について話すとき、無謀な試みをジョークにする人、散り散りになった家族について淡々と語る人、「複雑だよね」と言葉をにごす人などさまざまですが、冷静さの裏には、そのまま受け止めるには大きすぎる現実があるはずです。

展覧会で印象に残ったのは、材料を調達するのが大変といわれるキューバで、ポブレットさんがむしろ素材や色をふんだんに使って、丹念にパーツを重ねていく、膨大な作業量でした。その過程でどれだけの感情をこめたのでしょうか。

同時に、作品を鑑賞する私たちには、いくつもの受け止め方があり、それが多様であるほど、アートの存在感も表現力も、増していくように思えたのです。

海のように大きな包容力を感じさせてくれる展覧会でした。

 

展覧会情報はこちら

キューバ人アーティスト、マベル・ポブレットの国内初の個展「WHERE OCEANS MEET」は東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールにて2023年4月2日(日)まで開催。

その後、4月15日(土)から5月14日(日)まで、「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2023」に巡回する。

Author Profile

斉藤 真紀子
斉藤 真紀子
キューバ倶楽部編集長、ライター。ニューヨークでサルサのレッスンを受けたのをきっかけに、2000年に初めて訪れたキューバが心のふるさとに。
旅をするたびもっと知りたくなるキューバを訪れ、AERA、東洋経済オンライン、TRANSIT、ラティーナ、カモメの本棚、独立メディア塾ほか多数の媒体で記事を執筆。
2015年にキューバの現地の様子や魅力を伝える「キューバ倶楽部」をスタート、旅の情報交換や勉強会、講演会などのイベントも運営。
★キューバのエッセンスを生活に取り入れる日々をnote(https://note.com/makizoo)に綴る。
★Twitter: @cubaclub98 ★ Instagram: @cubaclub98
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