タイムトリップしたかのように、街並みがいつまでも変わらないので、タクシーの値段もきっとそのまま。そう思って、つい「昔ながらの価格」で値切ってしまいました。
「5ペソ(注)!」。新市街から旧市街に行くのに、こう言って、キューバの黄色いライセンスタクシーに乗ろうとしたら、運転手が苦虫をかみつぶしたようなような顔をこちらに向けます。「ありえん!」と言いたげな。そして、「7ペソ」と譲らない。
(注)外国人用兌換ペソで5ペソは米ドル5ドルくらい。500円超。
「7ペソなら乗らない」。日本では物事を丸くおさめることに全力を使っている私も、たった2ペソなのにがんとして譲らない、この頑固なパワーはどこからわいてくるのでしょうか。
窓にガムテープ
ハバナの新市街と旧市街の間は、10キロほど距離があり、15分くらいかかります。運転手にチップを払わなくていいので、「7ペソ」といっても、べらぼうに高いわけでもありません。
ですが、私は過去の記憶にひきずられていました。「5ペソで十分足りるはず!」と。2008年にキューバを訪れたとき、タクシーのメーターを確認して、その価格帯が刷り込まれていたのです。
そして時は変わり、2015年。メーターを回して車を走らせる運転手はほぼおらず、当時と比べて値段もあがったことから「キューバが観光地化して、運転手が勢いに乗って値段をふっかけている」と私は勝手に思い込んでしまったのでした。
実際のところ、「5ペソ」で新市街と旧市街の間を走ってくれるタクシーも探せば見つかります。エアコンもない、ラジオもない、窓もこわれてガムテープを貼っているような、「最低限、前に走ればいい」といった風貌の小型タクシー。
維持費はかからないのか、かけていないのか、よくわからないけれど、この種の車の運転手さんたちは「5ペソ」でも、喜んで乗せてくれました。
有り金を全部見せる
一緒に旅した日本人女性は交渉上手で、これから家に帰るだけというときなど、「私たちはこれしか現金ありません」と有り金をすべて見せて運転手に値切るのです。
そうすると、しぶしぶこちらの言い値で乗せてくれる運転手さんもいました。 旅も終盤にさしかかると、私たちは「5ペソ」で新市街と旧市街の間を走ってくれるタクシーをすぐに見つけられるようになりました。
そんなある時、珍しくメーターを回して走る「正直者」の運転手に出会いました。新市街から旧市街に着き、メーターを見てあ然とする私。なんと、7ペソを超えているではありませんか。
つまり、今まで「7ペソ」で交渉してきた運転手たちは、価格だけでいえばむしろ良心的だったのです。
運転手さん、ごめんなさい。そう思いながら振り返ってみると、2008年当時、世界各地で原油価格は高騰していたけれど、キューバは石油がすごく安かった。ベネズエラの故チャベス大統領との蜜月で、石油を安く手に入れられていたからです。
ところが、時は変わって2015年、世界の原油相場と必ずしも連動しない、キューバ国内の石油価格は当時より上がっている。もちろん、それ以外にも要因はあるかもしれないけれど、燃料費込のタクシーの値段は高くなって当然だったのです。
まあ、メーターを回さないのだから運転手も文句は言えないよね。半ば開き直りながら、すっかり値切りグセがついてしまった私たちは、最後、空港に向かうときまで、渋い顔のタクシー運転手を相手に交渉を続けていたのでした。
Author Profile
- キューバ倶楽部編集長、ライター。ニューヨークでサルサのレッスンを受けたのをきっかけに、2000年に初めて訪れたキューバが心のふるさとに。
旅をするたびもっと知りたくなるキューバを訪れ、AERA、東洋経済オンライン、TRANSIT、ラティーナ、カモメの本棚、独立メディア塾ほか多数の媒体で記事を執筆。
2015年にキューバの現地の様子や魅力を伝える「キューバ倶楽部」をスタート、旅の情報交換や勉強会、講演会などのイベントも運営。
★キューバのエッセンスを生活に取り入れる日々をnote(https://note.com/makizoo)に綴る。
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