フィデルは国民のお父さん? キューバで90歳誕生日のお祝い

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カストロのポスター

 

フィデル――。キューバの人たちは、親しみをこめて、フィデル・カストロ前国家評議会議長のことをこう呼びます。彼のインタビューが収められた、ドキュメンタリー映画のタイトル、「コマンダンテ(総司令官)」でも、プレジデンテ・カストロ(カストロ元首)といった、うやうやしい称号でもなく。

 

フランクにファーストネームを呼び合う、民主主義国家のアメリカ合衆国でも、オバマ大統領は「プレジデント・オバマ」と呼ばれているというのに。

 

キューバは共産党一党支配の国なので、「独裁者」のイメージが強いカストロ兄弟ですが、その実、キューバの人たちはリーダーや政府について言いたい放題なので、驚いてしまうことがあります。

野球帽をかぶって一緒にいてくれる存在

街並

 

ちょうどフィデルが健康上の理由で、最高指導者の座を弟のラウル・カストロに譲った2008年、ハバナを訪れたときのことでした。雨宿りをしていてたまたま出会った、日本語が流ちょうな若者たちに、フィデルの印象を聞いたら、こんなことを話し出したのです。

 

「フィデルの経済政策はうまくいっていないけれど、国をつくるうえでいろいろやってきた。うーん、彼に対しては複雑な思いもあるけど、憎めないんだよね。野球帽かぶっていつも一緒にいてくれるお父さんみたいな存在だから」(当時20代前半だった男性)

 

この「憎めない!」という言い分に、私は仰天してしまいました。キューバに行く前は、言論の自由がない、窮屈な圧制を敷いている国だと思っていたからです。

肖像画や銅像を作らせない

 

フィデルが自分の肖像画や銅像を一切作らせなかったことは知られていますが、もしふだんから「フィデルを敬え!」という上からの圧力が浸透していたら、一般市民から、このような距離感での言葉は出てこなかったでしょう。

 

前出の若者たちは「フィデルの家は3軒あるらしい」とか、「いつも居場所がわからなくて、いまもどの病院にいるのかわからない。ほんとうに生きているのかな!?」と笑いながら語っていました。

 

もちろん、キューバ国内でも、世代や個人によって、フィデルへの愛憎の度合いは異なるでしょう。私がたまたま若者に率直な意見を聞けたのは、「日本語を話す、外国人」だったから、本音を引き出しやすかったこともあると思います。

 

最近のキューバでは、政府による目に見える圧力はないそうですが、極端な反政府思想の持ち主は、職場で肩身の狭い思いをすることもあるとのこと。この若者たちも、話す場所は気を付けていると話していました。

もっとも暗殺されそうになった数が多い指導者

 

はてさて、8月13日にフィデルは90歳の誕生日を迎え、キューバ各地でお祝いモードが続いているようです。

 

キューバ革命の成功後、冷戦崩壊後も社会主義国を存続させたフィデル。「もっとも暗殺されそうになった数が多い指導者」、つまり、暗殺をたくみに回避した政治家としてギネスブックにも載りました。「泣く子も黙る、カリスマ政治家」のイメージが強かったのですが。

 

キューバの人にとっては、ときに反発したくなったり、愛情を感じたり、口うるさいと感じたり、いつも守ってくれる存在だったり、体が弱っていく姿を見て寂しいと感じたり・・・。長い年月を経て、あらゆる人間くさい感情を呼び起こされる、近しい存在になっているのかもしれません。

 

オバマ米大統領の演説を痛烈に批判

 

今年3月、オバマ米大統領がハバナを訪問したとき、キューバと米国の雪解けムードに水を差すようなことをフィデルが発言して、話題になりました。いわく、「口先だけ」。つまり、アメリカの過去の行動に対するキューバへの謝罪がないと、米大統領の演説を痛烈に批判したのです。

 

私もそのころハバナにいたのですが、舌鋒鋭くもの申すフィデルに、激しく同意するでも、炎上するでもなく、一般の人たちがそれぞれのスタンスで米大統領のスピーチを受け止めていたのが印象に残りました。

 

フィデルという大きな存在の「おとっつあん」には一目置きながらも、しっかりと教育を受けて育った、独立心旺盛なキューバの子どもたちは、そろそろ、親離れが進んでいるのかもしれません。

Author Profile

斉藤 真紀子
斉藤 真紀子
日本経済新聞米州総局(ニューヨーク)金融記者、朝日新聞出版「AERA English」編集、週刊誌「AERA」専属記者を経てフリー。共著に「お客様はぬいぐるみ」(飛鳥新社)。趣味はラテン音楽&ダンス、カポエイラ(格闘技)
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