【インタビュー】キューバの「音」を感じる映画「Cu-Bop」

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高橋監督とキューバのサックス奏者、セサル・ロペスさん
インタビューさせていただいた『Cu-Bop』監督、世界の高橋慎一さんと、キューバのサックス奏者、セサル・ロペスさん

 

キューバでいま、もっとも勢いのある、モダンジャズのミュージシャンを追いかけた映画「Cu-Bop」が、渋谷アップリンクで上映されています。キューバの音楽ドキュメンタリーといえば、「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」のように、往年のミュージシャンにスポットを当てた作品のイメージが強いですが、この作品はほとばしるようなエネルギーで「新しい音」を紡ぐミュージシャンが登場します。

 

7月から始まった上映会は開場が満員となる盛況ぶりで、「キューバが大好きだという方たちが応援してくれている」と、監督の高橋慎一さんは話していました。ロサンゼルスやワシントンDCの映画祭でも、お披露目され、「キューバ人に失礼な態度をとらないように、文化を教えてほしい」とアメリカ人に言われ、偏見のない反応に驚いたそうです。

 

「レコーディングスタジオで、ミュージシャンが音楽哲学を語るドキュメンタリーはたくさん見たけれど、時間をかけて彼らとつきあえば、お仕着せのインタビューは必要ない。彼らの日常、生き方に密着すればもっと伝わることがあると思いました」と高橋さん。

 

バラエティに富んだミュージシャンの演奏シーンや、生活の奥深くに入り込んだ場面が説明なしに続いていくので、「これからキューバを知りたい」という方は、プログラムの解説を事前に読んでおくと、わかりやすいかもしれません。

 

長年にわたる交流で、すっかりキューバ人のようになってしまったという高橋さんと、共同制作者の二田綾子さんに撮影の裏話を伺いました。

 

音楽ドキュメンタリーを作ろうと思ったいきさつについて

10月3日に行われた、五感で感じるキューバを楽しむイベント「Teatro Musica」のトークショーにて(中央、二田綾子さん)

10月3日都内で行われた、五感で感じるキューバを楽しむイベント「Teatro Musica(テアトロムシカ)」のトークショーにて(中央、二田綾子さん)

 

二田: 狂気の沙汰でしたね。高橋はすごい気迫で15年前にキューバでCDレーベルを始めたのですが、ふたりとも音楽好きのど素人。ミュージシャンを集めてスタジオをおさえれば何とかなるという勢いでした。

高橋: 写真も撮ったし、レコードレーベルも作った。次に絵も音も全部表現するには音楽ドキュメンタリーかなと思って、映画作りを思い立ちました。実務は二田さんが担い、僕は「情熱担当」でした。

二田: CDレーベルが開店休業状態なのに、映画を作るという話が出たので、私は後ろ向きでした。

インタビュー中の高橋監督と二田さん

高橋: 業績が下降しているときですからね。でも、僕はカメラマンやライターとして20年ほど現場に関わってきて、用意周到にしすぎて実現できなかった事例を数多くみてきたんです。企画書を書いてお金を集めて、機が熟すのを待っていたら10年かかる。だったら見切り発車でやってみようと。

二田: 最初は家庭用の小さなビデオカメラと生活費だけ持って飛びました。キューバは人のつながりが強くて、芋づる式にミュージシャンが集まってくれた。キューバでは外国人とわかると「外国人価格」になるので、彼らにスタジオ予約をしてもらい、私たちは隠れていました。

高橋: 毎回そうでしたね。ふつう、ドキュメンタリーでもシナリオらしきものはあるのですが、それもなかった。

二田: キューバは行ってみないと何が起こるかわからない。高橋はそれをプラスに転じて、むしろ、予測のつかない展開を撮ろうとしていました。

高橋: だからホテルには泊まらなかったんです。ひとつにはお金がなかったからですが、もうひとつは、ミュージシャンとともに寝起きして、生活を一緒にしないといけないと思ったので。

二田:キューバ人のミュージシャンも行き当たりばったりでしたね。いきなり今日ライブをする、と言ってきたり。

高橋: 彼らは今日明日、長くても明後日ぐらいのことしか考えていない。だからマグマがあふれるようなパワーのある演奏ができる。多くの日本人は10年後の将来設計をしながら生きていますけれど、月々定期預金している人にはああいう演奏はできない。

ニューヨークのシーンで、ミュージシャンが宿の主人に「100ドルもらったら50ドル貯金しなさい」と言われる場面がありますが、「それはできない」と彼らは言う。100ドルもらったら、120ドル分使って、20ドル足りないと叫ぶ。映画の撮影のときにもお金を持たずにタクシーに乗ってしまって、待ち合わせ場所でタクシー代を払ってくれる人、つまり僕を探しているんですよ。

二田: サンテリアの場面も街を歩いていたら、家から音が聞こえてきて、急きょ交渉したんでしたよね。

高橋: 最初は怒られたんですが、私は「チップを持ってまいりました」なんて言って話をしたら、途中からアミーゴ(友だち)になり、しまいには「彼は日本のジャーナリストで我々の文化を記録しようとしている」とみんなの前で紹介され、偉い人になってしまった。「好きなだけ撮ってくれ」と言ってくれました。

二田: 宗教儀式はなかなか撮影できないですよね。

 

キューバ人と交流で自分自身は変化しましたか?

インタビュー中の写真

 

高橋: 確実に変わった部分はあります。食べるもの、服装、住む家、寝る場所などにまったく頓着しなくなりました。20代のころは洋服もブランドものが好きでしたし、こういうところで食事がしたいというふうに、ライフスタイルにこだわりがあったけれど、今は一切なくなりました。

二田:私はもともと、前に出たくないタイプだったのですが、キューバにいるといやでも知らない人と毎日たくさん話さなければいけない。彼らは言葉がわからなくてもおかまいなしに話しかけてきますから。停電が続いたときがあって、みんな家の外でそぞろ歩きしていたのですが、私が座ってビールを飲んでいたら、次々と通りすがりに話しかけてきた。

高橋: うちの田舎にきて、おいしい牛のお乳をのんでほしいと身振り手振りで伝えていたお兄ちゃんもいて面白かったよね。

二田: 私も次第に悪ノリするようになって。「君たち中国人だろう」とキューバ人に言われたから、「ならば埼玉を知っているか」と逆にきいたら、「北京と上海は知っているけれど、埼玉は知らないなあ」と一生懸命考えていましたね。

高橋: 炭酸飲料は冷やさないと飲めなかったのが、キューバは自動販売機がないから人肌にあたたまったコーラが出てくる。脱水症状になるから仕方なく飲んでいたら、そんなことは気にならなくなった。汗だくで外から帰ってきて、水道から水が出てこなくても、大丈夫になった。

二田: キューバにいると半分はものすごく楽しくて、半分はものすごく不便。日本人はいやなことを我慢してストレスが少しずつ蓄積されていくというのがあると思いますが、キューバ人はいやならいやで発散する。そこでリセットされるのですね。いやなことがこんなにあるのにストレスがないのはどうしてかなと思ったら、しっかり発散できている。

高橋: 僕も強くなりました。バスが2時間来なくても、飛んでいる鳥を指さして、「あれはスペイン語で何て言うのか」と聞いてみよう、とか考えている。

 

そのような状況で、映画ができなくなる不安はなかったですか?

イベント用に作られた特性のカップケーキ

イベント用に作られた料理研究家小島和美さんの特性のカップケーキ

 

高橋: そこは一ミリも揺らぎがなかった。できるか、できないかを考えるどころか、傑作になると思っていました。別の意味で「これはやばい」と思っていた。「この傑作ができたら、人生変わってしまう、やばい」みたいに。

二田: 何年も日本とキューバを行き来しながら、どういうストーリーになるのかも全然わからなかったですけど。

高橋: 自信に満ちていましたから。クラウドファンディングで100万円集まったのですが、映画ができなかったらどうしようとは全然考えなかったですね。むしろ、「よかった。このすごい映画に名前が掲載される人たちは喜ぶだろうな」と考えていました。

二田: キューバに行っていなかったらこの発想はなかったかもしれない。

高橋: 46歳で初監督だったのですが、日本人の監督の方に、「日本にしか興味がないという監督も多くて、それは良し悪しだけど、それにしても君の場合極端すぎるぞ」と言われました。

二田: 「世界を相手にするぞって」高橋は最初から言っていました。

高橋: 撮りながら、ずっとそのテンションで。

二田: キューバのアーティストたちもそんなテンションでした。

高橋: キューバの著名ミュージシャンに「映画を撮ろうと思う」と言ったら、「お前はいいアイデアを持っているな」と、それで終わり。どこの配給会社で、製作費いくらで、いつごろ完成か、なんて聞かない。お互いいつもそんな感じで、「俺たち、バカなのでは?」と思うこともありました。後ろでみていたミュージシャンのお母さんも「私も出るわよ」なんて登場してくれて、すごく明るい現場でしたね。

 

【映画「Cu-Bop」】

http://kamita.ciao.jp/

東京・渋谷アップリンクで上映中

http://www.uplink.co.jp/movie/2015/37758

 

Author Profile

斉藤 真紀子
斉藤 真紀子
日本経済新聞米州総局(ニューヨーク)金融記者、朝日新聞出版「AERA English」編集、週刊誌「AERA」専属記者を経てフリー。共著に「お客様はぬいぐるみ」(飛鳥新社)。趣味はラテン音楽&ダンス、カポエイラ(格闘技)
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