キューバで胃腸炎に~無料医療で考えたこと

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地方都市トリニダーで子どもたちを迎えに行く親たち。医療関係者の姿も

地方都市トリニダーで子どもたちを迎えに行く親たち。医療関係者の姿も

 

新年はキューバ音楽で踊りあかしたい。そんなことを夢見ていたら、年末年始は急性胃腸炎にノックダウンされ、ひたすら寝床をあたためておりました。おまけに激しくトイレに駆け込んだ勢いで、腰に稲妻が走り、もしやこれはぎっくり腰!?

都内にある大晦日の休日診療所を訪ねると、マスク姿の子どもたちで少々込み合っていました。忙しいからか、目も合わせずに診察する、中年の男性医。診療ベッドに横になるように言われ、「ぎっくり腰になりまして」と言い訳しながら、トドのように横たわっても、反応もせずに、淡々と腹のあたりを押すポーカーフェイス……。

すると、キューバで胃腸炎にかかったときの記憶がよみがえってきました。5年ほど前、雑誌の仕事でキューバを訪れていたのですが、揚げ物か何かに当たって、七転八倒する羽目になりました。折よく翌日、キューバの女医さんについて取材をするため、病院に行く予定になっていました。そのついでに、なんと、キューバの無料診察の恩恵を受けることができたのでした。

1日に食べるにんじんの量を聞かれる

殺風景な診察室の中央に置かれた、やたらと大きなステンレスの診察台によじ登ったときのことは忘れられません。そのときの心境はまな板の鯉。女医さんは実に丁寧に腹まわりを触診してくれたのですが、「1日にどれくらいにんじんを食べるのか」、「ほかに毎日何をたべているのか」と、やたらと日本での食生活に興味を示しています。どうやら、胃腸炎に関する質問ではなく、私の肌が黄色いのでにんじん食べ過ぎではないか、あるいは同い年の彼女に比べて体形がミニサイズすぎるのではないか、ということを心配していたようです。

そんなふうに、触診中の会話は「脱線ぎみ」だったものの、「あと1日半後に症状がおさまる」、「飛行機に乗るころには何も心配ない」という、女医さんの診断結果はぴたりと当たり、無事帰国の途についたのでした。

その女医さんは町医者として、クリニックで開業をしているほか、担当地域の住民宅を訪問し、定期的に健康状態を確かめにいっているそう。キューバは医療が無料ですが、だからといって、政府がまかなう医療費が潤沢にあるわけではありません。モノ不足ゆえに、薬が手に入らなかったり、医療機器などの設備が十分ではなかったり。だから、予防医学に力を入れているのです。病院に来ないけれど、糖尿病にかかっている人がいるかもしれない。そこで医師がその人の家まで健康状態を確認しに行き、健康指導をするのだと話していました。

人口当たり医師数は世界トップレベル

町医者制度を支えているのは、世界でトップレベルを誇る医師数にあります。キューバは統計的には人口千人当たりの医師数が6.72人で世界2位(WHOの2010年の統計。ちなみに、日本は2.29人で55位)で、海外にも医師を派遣しています。

日本では子育てのタイミングで女性医師が仕事を続けにくくなるケースも多いといいますが、キューバは女性の医師を支える仕組みも整っていると感じました。私が訪ねた女性医師は、クリニックの隣に家が支給されていました。夫はコンピュータ関係の仕事をしていて子どもが2人。保育園は無料で、「夫が家事や子育てを手伝ってくれて助かっている」と話していました。男女比でキューバの医師は男性より女性のほうが多く、海外派遣にも積極的に参加しています。

ワクチンなど、キューバの医療技術は世界でも注目されていますが、コミュニティをあげて、「予防医学に力を入れる」という仕組みは目からうろこでした。

そんなキューバの予防に力を入れた医療制度を思い出しながら、私も新年、「寒くても、酔っぱらっても、手洗い、うがいを忘れない」と心に誓ったのでした。

Author Profile

斉藤 真紀子
斉藤 真紀子
日本経済新聞米州総局(ニューヨーク)金融記者、朝日新聞出版「AERA English」編集、週刊誌「AERA」専属記者を経てフリー。共著に「お客様はぬいぐるみ」(飛鳥新社)。趣味はラテン音楽&ダンス、カポエイラ(格闘技)
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