キューバ人はマッチョか~政府の「非マッチョ化」キャンペーン

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キューバの街並

 

ハバナの街を歩いていると、はちきれそうな上腕に思わず目がいってしまいます。ノースリーブや短い半そでのシャツを着て、上腕二頭筋をアピールするキューバの男の子たち。

「重いものを持ってくれそう」、「あの腕でお姫様抱っこされたい」

たくましい腕が、こんなふうに女性の妄想を刺激するかどうかは別として、「キューバの男性はマッチョだ」と、よく言われるのは、力こぶの大きさとも関係あるのでしょうか?

マッチョは男尊女卑?

キューバの街。サッカーのユニフォームを着ている男性

 

日本ではマッチョというと、筋骨隆々の体つきをさすことも多く、「好みのタイプは細マッチョ」という女性も多いようです。精神面で、「彼はマッチョだから」と言っても、さほどネガティブに響かないでしょう。

しかし、英語、スペイン語圏で「マッチョ」(もとは形容詞)や「マチズモ」(名詞)といえば、単に男らしいというだけではなく、男尊女卑というマイナスのニュアンスも漂います。

私がアメリカ合衆国のボストンでホームステイをしていたときに出会ったホストマザーも、「恋人だったキューバ人男性が亭主関白で一緒に暮らせなかった」と話していました。彼女は70年代、キューバに住んでいて、現地の男性との間に子どもを授かったのですが、その男性は食事の時間になると、「サーブ!」(超訳:「メシはまだか!」)と叫んだそうです。ホストマザーは威張りんぼうの彼に嫌気がさし、ひとりでアメリカに戻ったとのこと。私が驚いたのは、「メシはまだか」とさけぶ男性より、むしろひとりで子どもを育てることを選んだ彼女の強さのほうでしたが。

リアルなマッチョ男性を探してみると

 

ですから、キューバに実際に行ったとき、どんなに威圧的な男たちが現れるのかと思ったら、たいがいレディファーストだし、リップサービス精神が旺盛、ジョークを連発する軽やかな老若男性がたくさんいて驚きました。

はてさて、キューバのマチズモ男性はいずこに? と、リサーチしてみると、意外にも、キューバは「男性優位主義社会」とは別の方向をめざしてきた国であることがわかってきました。革命後、教育制度の充実をはかり、職場の男女同権を推進した結果、女性の社会進出が進み、政府発表の統計によると、医者は女性が過半数、エンジニアなどの知的職業は男女ほぼ半数になっています。

さらに政府主導で男性の「非マッチョ化」を促進するキャンペーンがおこなわれています。2011年に、キューバ国立性教育センター(CENESEX)を訪ねました。国家評議会議長のラウル・カストロの娘、マリエラ・カストロが所長を務め、性的マイノリティの権利擁護やエイズウィルスの感染予防などを手がけている組織です。CENESEXの男性職員によると、キューバでは女性より男性のほうが平均寿命は短く、交通事故や病気など、若くして命を落とすのも男性が多い。それは「社会で男らしさが求められる、すなわちマッチョ社会のストレスやプレッシャーがかかる」ため。だから、国民の健康を守るためにも、男性は「男らしさ」から解放されるべき。そうした考えのもとに、啓蒙活動をしているとのこと。

マッチョで寿命が縮む?

 

実際に保育園で男児にままごとをさせたり、テレビドラマで家事をする男性を登場させたり。政府主導で、いろんなアプローチをしているようです。その影響かどうかは定かでないですが、ハバナで「自分は恋愛に奥手」と話す若いキューバ人男性に出会ったので、「草食男子」という当時の流行語を教えてあげました。

アメリカ合衆国や日本は職場などの「男女平等」という観点から、男らしさや女らしさを押し付けないようにしようという動きが起こっていますが、「男らしさは健康に悪い」という観点で、マッチョ思想をコントロールしようというキューバ政府の試みは新しいと思いました。

マチズモと聞くと、私がイメージするのは元キューバ国家評議会議長フィデル・カストロです。大柄で、革命戦士で、大国の脅しにびくともしなかった政治家。亭主関白かどうかは知らないけれど、公の場にファーストレディを伴ったこともない。

フィデル・カストロはマチズモの象徴?

キューバの街並

 

2000年にカストロ氏と、当時の米大統領ビル・クリントン氏が対面したとき、ジョークだか本当だか、こんな話が出回りました。「友好のしるしにふたりでキューバのシガーを吸うことになった。クリントンがシガーカッターで吸い口を切ったら、カストロ氏は『俺はそんなのいらん』とばかり、シガーの先を噛みちぎって、ぺっと吐き捨てた」。なんだか、マッチョでありませんか?

クリントン氏をめぐってはもうひとつ、当時の森喜朗首相との対面中のジョークも知られていますよね。”How are you?”とあいさつしたつもりが”Who are you?”と受け取ったクリントン氏が”I’m Hilary’s husband.”(ヒラリーの夫ですよ)と返して、(森氏が想定問答どおりに)”Me, too.”(私も)と言ってしまったというもの。森氏はこの話を否定していますが、真偽はともかく、マッチョと対極にあるようなやさ男風、クリントン氏のイメージがジョークのもとになったといえるかもしれません。

 

閑話休題。キューバで昨年滞在したカサ・パルティクラル(民宿)でも、夫がかいがいしくお皿を運んだり、コーヒーをいれたりしていました。威張らず、家事も手伝ってくれ、肝心なときは力強く自分を守ってくれる男性がいいなあ、なんて女性は勝手な理想を抱いていたりします。「らしさ」から解放されたキューバ人男性が、そんな女性たちのリクエストにこたえようとして、余計に寿命が縮まらないかと、いらぬ心配をしてしまいます。

 

Author Profile

斉藤 真紀子
斉藤 真紀子
日本経済新聞米州総局(ニューヨーク)金融記者、朝日新聞出版「AERA English」編集、週刊誌「AERA」専属記者を経てフリー。共著に「お客様はぬいぐるみ」(飛鳥新社)。趣味はラテン音楽&ダンス、カポエイラ(格闘技)
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2 thoughts on “キューバ人はマッチョか~政府の「非マッチョ化」キャンペーン

  1. 全般的に中南米ではマチスモは21世紀以降は「古臭い」と思われる傾向が見られます。中南米全体で見ると<大都市:マチスモ度低い、地方:マチスモ度高い>、<インテリ層:マチスモ度低い、貧困層:マチスモ度高い>といった感じでしょうか。あくまで私の主観ですが、キューバのマチスモ度は周辺諸国に比べて低いです。以前に神奈川大学の後藤政子先生の講演を聞いた時、「フィデルはフェミニスト」と断言していました。キューバで今、注目を浴びている女性の1人として、対米の国交正常化交渉の実質的な筆頭、ホセフィーナ・ビダル外務省北米総局長を挙げておきましょう

    • マチスモは中南米で時代遅れになりつつあるのですね。世界的な傾向でしょうか。フィデルはフェミニスト、というのは面白いですね。革命後の政策で、女性の社会進出が著しいということなので、トップがフェミニストだった、というのもあながち、意外なことではないのかもしれませんね!

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